目が覚めて

 

パンを一つ飲み込むと

 

わたしはもう

 

することがなくなってしまった

 

午前三時に眠れば

 

朝という時計に

 

出会わなくていいと思ったが

 

間違いだった

 

彼は手早く身支度を整えて

 

裏口に鍵をかけるのも忘れて

 

窓から出て行ってしまう

 

「いつお戻りになられますの」

 

「日が沈んだ頃だろうか」

 

彼女との会話はそれだけ

 

 

信号が青になってから彼女は

 

「いってらっしゃい」を思い出して

 

デスクの最後の引き出しを開ける頃になっても

 

彼は「いってきます」を口にしない

 

その頃の私はまだ

 

思い出したように

 

呼吸をするだけだった

 

 

約束の時間を時計に刻んでから

 

何の約束にしようか考える

 

誰と何をしようか

 

読みかけのスティーヴンキングを開こうか

 

フランツフェルディナンドを探そうか

 

世界の終わりとハードボイルドワンダーランドを

 

借りようか

 

それなら眼鏡をかけようか

 

その前にチャイを淹れようか

 

バスルームで眠るのもいい

 

 

何の約束をしようか考えていると

 

思い出した

 

彼は必ず「ただいま」を

 

忘れないんだ

 

 

 

 

ーendー

 

 

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