僕は知っていたんだ

 

でも今は教えないよ

 

探しているんだろう?

 

その足が歩けなくなるまで

 

その手が掴めなくなるまで

 

その目が見えなくなるまで

 

その鼓動が止むまで

 

探し続けると言っただろう?

 

 

きみが訪ねてきたのは すっかり晴れた七月の真昼

 

どこから来たのかと尋ねると

 

靴の底が無くなるほど歩いたところから

 

どうして来たのかと尋ねると

 

探し物をしているんだ

 

大きくて 美しくて 眩しくて 複雑で 優しいもの

 

きっとそんなものだと思うんだけど

 

あんたは知っているかい?

 

 

僕はもちろんその在り処を知っていた

 

でも君に言うのを躊躇った

 

世界中を旅しながら探しているという君を

 

デッキチェアに招いた

 

話をしよう

 

妻が飲み物と夕飯と今夜のベッドを用意してくれるから

 

 

君はなぜ永遠を探しているんだい?

 

まだ誰も見つけていないようだから

 

ノーベル賞か何か

 

見つけたら 貰えるんじゃないかと思ってさ

 

そうか、そうか

 

見つけたら旅を終えて故郷へ帰るんだろう?

 

待っている人はいるのかい?

 

恋人がいたけれど別れたよ

 

長旅になりそうだと言ったら

 

二人なら見つけられるんじゃないと言うんだ

 

あいつはいい女なんだけどとてもどんくさくて

 

旅には向いていないから別れたんだよ

 

美味しいアイスティーだね

 

 

僕は知っていたけれど

 

わざわざ教えるのは親切じゃないことくらいわかっていた

 

けれど 彼女が気の毒になってしまって

 

 

夜はまだ肌寒く

 

白い月が見えるころに 夕飯の煙が灯った

 

妻が僕たちを呼んだ お待たせしてごめんなさいね

 

 

朝になって物干し竿に靴下が並んだあとで

 

朝食を食べ終えた君は出て行った

 

力になれたかな 僕が言う

 

あぁ あぁ

 

あいつのところにあったような気がする

 

そうなんだろう?

 

知っているんだろう?

 

あぁ 知っているよ ここにもあるからね

 

ありがとう、ごちそうさま

 

あいつには一度も言ったことがないんだ

 

言ってやらなくちゃいけないんだね

 

いや、ちがう

 

俺が言いたいだけなんだ

 

ありがとう

 

今まで気付けなかったなんて

 

 

僕が特別なんじゃない

 

ただ君が思い出した 手伝えたなら良かったよ

 

さぁ気をつけて帰りなさい

 

永遠のあるところへ

 

 

待っているとは限らないよと

 

伝えるべきだっただろうか

 

 

 

 

ーendー

 

 

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