帰り道だった。

どこへ行ったのかは覚えていないが、

楽しく過ごした帰り道だった。

自販機でタバコを買った。

再び自転車に乗り、

家路の続きを辿ろうとした視界に、

ホームレスが

ソバをすすっている姿が見えた。

路地のくぼみに座り込み、

破れたりほつれたりボロボロの

粗末そうな服を何枚も着込んだ猫背で

不器用そうにソバをすすっていた。

使い捨て容器のソバは

冷たそうだったし延びて見えた。

少しも美味そうには見えなかった。

そんな姿を一瞬だけ、

右足でペダルを踏み込んだ時に見た。

左足がペダルを踏み込んで、

コンマのフライングで

スクランブル交差点へ走り出した時、

私は泣いていた。

涙がこぼれていた。

何故だかわからなかった。

私の何かがおかしくなったのか、

もしくは、やっと正常に働いたのか。

 

十一月、立冬を迎えた

鼻の奥がつんと痛い青い夕暮れ時だった。

 

五分とかからず自宅マンションに着き、

部屋に入ると、

もう涙はこぼれなかった。

電灯が点いたままの部屋は

ほんのり暖かみを持って

私を受け入れた。

頬に情けなく涙の跡を塗りつけて

私はついに自分のおかしさに気付いた。

泣くのは至極自然なことで、

涙は止まったのだから。

私はつまり不自然だ。

温かい部屋で震えない正常さ、

蛍光灯の明かりは眩しすぎず

勿論 夜に矛盾している異常さ。

ソバを食う自然さ、

服を着こむ正常さ、

路地に暮らし屋根を持たないことへの

可不可に泣く自然さ、異常さ。

 

私たちは生きることに恵まれてはいなくて

そして貧しくはない。

エゴをもって感謝しよう。

変わらず生きていくことに。

 

 

 

ーendー

 

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