書斎 pickup キセキロク キセキだとか呼ばれるものはきっと、食器棚の上のほうに並べてある来客用の上等なグラスに、ほんの細かい埃が付着しているのを見つけた時のことだ。 そうだと思って注意深くなると、途端にグラスは輝きを増す。 しかし幾ばくかして忘れたような頃になって、ふと客人も無いのにふと曇りを見てしまう。 キセキだとか呼ばれるのはきっと、そん... 文月えん
書斎 AOIRO 《目次》 痴人の愛 夏猫 正しい行い(仮) パスタの行方 ディナーショー ぼくのヒコーキは空を飛ぶ つちふまず 空の死神 通り雨 ハピネス 空の足 サカナ 薬指の契り 波 水嵩の増した夜を泳ぐ 刺繍 誘惑 天使 痴人の愛 愛され方を知ってる猫に どうすればいいか聞いてごらん きっとヤツはこう答えるのさ 曲がっ... 文月えん
大広間 ワイヤー 私たちはいつも 地面と空を結ぶワイヤーを 探すような会話をした それは無いのだ わかっていた だからこそ会話を続けた そうすれば やがて朝が訪れ 私たちはいつの間にか眠れるからだ 途切れそうになる時 私たちのどちらかが 例え話を始める 話題は久しく脱線し 花と雲の関連性を 探すことになる それは無いのだ わ... 文月えん
撞球室 棒倒し 芸術的な嘘を吐いて 男はパスタを食べに行く 文学的な洗濯をして 女は真実を見つけ出す 数学的な痴話喧嘩も 夕方には真ん中で落ち着こう 男だって 女だって 理性的な衝動も 結局 真ん中で落ち着くのさ ーendー ... 文月えん
撞球室 アンドロギュノスの否定 どんな女になろうかしら 選択肢は少ないけれど 二者択一ではないのよ なりたい女になれるのよ あんたの望む通りにも どんな女になろうかしら こどもにだってなれるのよ 母親にだって 天使にだって 女神にだって オモチャにだってなれるのよ 涙にだってなれるのよ あんたにだけは なれないけどね ーendー ... 文月えん
寝室 月下美人 花も恥じらう 乙女十七 煙くゆらせ 氷噛み ソファで呟く 「おしまいね」 華と振る舞い 乙女十八 今夜の寝床は二度目の男 ベッドで呟く 「おしまいね」 黒髪括る鏡台に 抱いた背中を盗みやり いつの間にかの常なれど 眉顰めても 朝は来る 華へ蝶へと 乙女二十二 騙し騙され 陽を眠り 揺れては香る 「あたしは夜に咲... 文月えん
秘密の扉 告白 そうだな、結局は、寂しさを紛らわせたいってだけなんだけど きみに会いたいんだ きみに会えないからって 代わりを探そうとは思わない だから、一人きりだってかまわないって口走るけれど そんなのは強がりとは言わないんだ そうだよ、寂しさを紛らわせたいだけなのに きみに会いたくなるってのがどういうことか わかるでしょう... 文月えん