寝室 宵待ちの声 何もない夜 待ち焦がれても 待つことしかできない 呼んでみようか きみの名前を 何もない夜 こだまも返らない夜 雨が止むように 明日は来るのに 待つことすら もどかしい夜 ーendー ... 文月えん
撞球室 棒倒し 芸術的な嘘を吐いて 男はパスタを食べに行く 文学的な洗濯をして 女は真実を見つけ出す 数学的な痴話喧嘩も 夕方には真ん中で落ち着こう 男だって 女だって 理性的な衝動も 結局 真ん中で落ち着くのさ ーendー ... 文月えん
寝室 きみは月より近く明日より遠く 真夜中の交差点 追いかけてしまいそうな どうしようもないお別れに いつもより強く抱きしめたきみの背中 胸に顔をうずめて 「あたしはちっちゃいな」 爪先立ちで長いキス 「あたしはちっちゃいな」 真夜中の交差点 離したくない右手を どうしようもないお別れに いつもよりたくさん振って向けた背中 胸で右手を握って 「あたし... 文月えん
寝室 月下美人 花も恥じらう 乙女十七 煙くゆらせ 氷噛み ソファで呟く 「おしまいね」 華と振る舞い 乙女十八 今夜の寝床は二度目の男 ベッドで呟く 「おしまいね」 黒髪括る鏡台に 抱いた背中を盗みやり いつの間にかの常なれど 眉顰めても 朝は来る 華へ蝶へと 乙女二十二 騙し騙され 陽を眠り 揺れては香る 「あたしは夜に咲... 文月えん
寝室 ヒトトシテ いつからか 「好き」と 言えるようになりました いつかより 自分を好きになったからです いつからか 「嫌い」と 言えなくなりました いつかより 他人が嫌いになったからです たくさんの弦を並べて 小枝で弾いては うたっていました 鳥でもないのに 疑いに目を光らせ くるぶしに爪を立てて うたっていました 猫でもない... 文月えん
寝室 エラ呼吸 わたしの恋人ったら お部屋の隅の水槽で じっとしてるのが好きみたい わたしが眠ると 自転車に乗ったり 小石をかき集めたり ひとりあそびが好きみたい わたしが呼んだって ちっとも応えないけれど ひとりあそびに飽きたら 寂しい淋しいって呼ぶの わたしの恋人ったら 浮気が好きみたい わたしの恋人ったら 息してばかりなのよ ... 文月えん
寝室 ドライフラワー 一度枯れた花にもう一度水を差すみたいな希望を持って できるだけきみに愛されたいと願ってた まだ幼かったころ 花にも命があることを知ったはずなのに 今はドライフラワーだって愛せる それなら19のわたしと29のきみなら 枯れた花が甘い水で芽吹くと ウソブケタカモシレナイ 小さなわたしはもう22だから ドライフラワー... 文月えん